頸髄損傷の身でありながら気功を行うことを思い立ったのは,2018年4月に「気の育み方」という本を読み通す機会を得たことによりま
す.
「気の育み方」に心を動かされたのは,本書が身体内部エネルギー養成法という副題が示すとおりに,身体内部での養成というアプローチであった
からです.受傷直後の入院中,「力をくれ」と叫びたくなることが何度もありました.誰にももらえないことは分かり切っていて,誰かに泣き
つこ
うとした自分が哀れに思えました.そんな時は,「力はもうここにあるから」と自分に言い聞かせました.力のありかとして私が認識した場所は,
脳の器である頭でも心臓が収まっている胸でもなく,丹田としての腹でした.
手帳には,上肢と下肢だけでなく体幹の麻痺が記載してあります.ここでいう麻痺とは運動神経と知覚神経の麻痺ですが,そのほかに自律神
経も
失調しています.運動神経が麻痺しているために,鍛錬の場がベッド上の仰臥位と電動車いす上の座位に限定されます.合掌や挙手のような簡単な
動作もできません.知覚神経が麻痺しているために,関節や経穴の場所を指で押されても確認できません.鍼や灸も感じません.さらに,今後
も続
く麻痺だけでなく,十数年間も身体を使わなかったことによる「学習された不使用」も大きなハンデです.それでも,気感を熱感として得られる部
位がいくつかあることは救いです.
健常者でもできた気になっていただけということがあり得る気功を実践できるのか.自分の肉体だけを用いた実験です.眠れぬ夜も含め,時
間は あります.自分の金も他人の時間も必要としませんから,気楽なものです.
このサイトでは,頸髄損傷者が行なう気功の目的と方法を共有します.鍛錬の結果について触れる予定はありませんが,鍛錬の進捗を踏まえ
て目 的と方法を更新します.
2018年12月
1957年に劉貴珍が著した「気功療法実践」という本により,それまでは導引,吐納,錬丹,静座,禅定,養生といろい ろにいわれていた各種の伝統的な修練法が気功という一つの言葉にまとめられました.劉貴珍は「気功療法実践」の中で,「気は呼吸という 意味で,功は絶え間なく呼吸を調整して姿勢動作を練習するという意味である.」と言っています.気功には調身(姿勢),調息(呼吸),調 心(意念)という3つの手段が含まれます.